強風は谷で巻き上がるという話を親方に聞いた。
この話は本当であると思う。
私が水源としている山の小川は当然のごとく山と山の間の谷を心細く流れているものであるが、この谷の破壊はとんでもない。
ここまで大木が、左右上下になぎ倒されている場所は見たことがない。
このような谷の完全な破壊により海の家の唯一の水源である沢の水が我が家に届かなくなってしまった。
今週は沢の水を復活させるべくトライしようと思う。
なんか水を引いてくるなんて野性味のあふれるロマンあふれる作業でちょっと楽しみ。
とのことで、早朝に準備開始、午後から天気が崩れるらしく、天気が崩れる前に何とかしたい。
今般は、本格的なもので、しっかりと準備を整えてから出発する。
針金にペンチ、なたに赤いビニールひも、農業用ホースに連結器と。
それぞれの使い道は使う時にということで。
秋らしい季節となり、朝の空気がおいしい、空は秋晴れ、収穫直後の水田のそば、うーん、景色が美しい。
目的の第一の蛇口に到着。
蛇口をひねると、水が勢いよく出てくる、あれ、ここの水は、でないはずなのにと思いながら見ているとすぐに水が尽きる。
しめしめ、私はこれから水を山から引くという大仕事に取り掛かる、この山から水を引くという仕事ができた暁には、山の人として、少しはレベルアップするのではないかと何となくワクワクする。
海の人と書いて海人、うみんちゅ、山の人と書いて山人、やまんちゅという言葉があるかはわからぬが、いずれにせよ、ちょっとあこがれの人種。
ここで、持ってきた赤のビニールひもを切り、そばの木に結び付ける。
本当にわかりにくい場所にあるので、しっかりとしるしを残しておかねば、次の時に来れなくなってしまう。
第一の蛇口を確認し、赤いビニールひもでマーキングした後、川を渡る。
一週間前に来たばかりであるが、さらに木や竹が倒れており、景色がかなり違って見える。
いずれせよ、小さな沢伝いに上っていくと、第二の蛇口が表れる。
第二の蛇口をひねるが水は全くでず、うんともすんとも言わない。
やはり水は来ていないらしい。
ここは特にわかりにくいので、しっかりと赤いビニールの紐で、3本ほどそばの木をマーキング。
次に、セメントでできたドラム缶のような形の石の筒の場所に行くと、このセメントの筒は干上がってしまっている。
次にステンレスの風呂桶で作った貯水槽にくるが、ここも干上がってしまっている。
ここまでダメだということは水源さえ直せば、水を家に引き込むことができるのではという楽観的な思考でワクワクしてくる。
一番たちが悪いのは、コンクリの筒や風呂釜に水が供給されて、その先に行かないということであると、その途中のパイプのどこかが切れていたりするわけであり、そうなったらこちらとしてはお手上げであるが、どうもそうではないらしい。
最終的に水源にきてみると、水をとっていた場所は荒れ狂った台風の大風の影響でなぎ倒された木々の下。
当然のごとくそこにたどり着くことはできない。
私がまずしたことは、風呂桶より高いところの沢にちょっと深くて水がたまったところがあるか探すことであった。
すぐに見つかり水もきれいなので、私はさっそく風呂釜からその水源までホースを引っ張りホースの長さを確定。
ホースは100M購入していたが、おそらく20M程度。この20Mの片方を針金で風呂釜に固定し、もう片方を川の中に入れて見る。
流れてくれーと願いを込めるがそこまでうまくいかない。
要は、全体としては、水源は上、流す風呂釜は下にあるのだが、途中の高低により水が引き込まれないのである。
これはサイフォンの原理をつかなわなければならないと思い、ホースに水を注ぎ込むバケツなどを探すが全くない。
仕方なく、わたしは自分の水筒のお茶をすべてすて、その中に川の水を汲み20Mのホースの両端を持ち、片方からすべてを注ぎ込むもいっぱいにならない、再度水を汲み注ぎ込むやっとホース全体が水で満たされ、やっとサイフォンの原理が発動される。
片方を下げるとそこから水があふれ出しという感じで。
私は、両手の親指でそれぞれのホースの先端をしっかりとおさえ、水が漏れないようにして、片方を風呂桶の中に突っ込み針金で止める。
もう片方は、親指の線を外さないように山道を20Mほど登り、狙いとしていた水源の中に入れ、親指を放した。
するとすごい勢いで水が吸い込みだされ始めた、感動の一瞬だった。
水の中に手を突っ込み、ホースの先端に三股に分かれるジョイントを取り付ける、これは、普通は4方向からホースをつなぐものであるが、私の場合は、どこかが詰まった場合でも他二つから水を取り込めるようにということで、三方向水取り込み器具である。
その上から、葉っぱや石などがこの三方向の穴を防がぬように100円ショップで購入した洗濯用の網をつけ、水中深くうずめた。
風呂桶にいってみると、勢いよく水が入ってきている。
この風呂桶に水がたまるのを待った後、次の石の筒方向へのホースに水が吸い込まれているのを確認し、石の筒に向かった。
今まで、空であった石の筒から盛大な音とともに水がどんどん流れ込んできている。
たまらなく興奮し、本当にうれしい瞬間であった。
この調子でと思い、第二の蛇口をひねってみると、第二の蛇口からは水が全くでてこない。
イヤーな予感、すなわち、石の筒と第二の蛇口の間のパイプが断裂しており、水が流れてこない、これは正直言って致命的な欠陥で、土中に埋められたパイプが破損しているようであれば、これはある意味素人の私では修復不可能である。
と、途方に暮れていると、蛇口から水が一滴たれた、しばらくして2滴目が、3滴、4滴と等間隔で垂れてくる。
蛇口の水が出るところに手を当ててみると何となく振動と空気が吐き出されてきているのを感じる。
私はここで、水が少しずつ降りてきて空気をおしだしているというイメージを膨らませ、しばらくその場で待つこととした。
この第二の蛇口のところはちょっとした高台になっており、景色がよい。
たばこをやめて2年ほどたつが、喫煙者時代であれば間違いなく格好の一服の場となっていたであろう場所で何もすることなくただただ、蛇口を見つめながら。
蛇口を見つめること15分、結局出てこず、たぶん明日になれば流れるだろうというわけのわからぬ思考回路のままその場を立ち去ろうと思った瞬間、一筋の水が突然流れてきた。
水の勢いは強くはならないが、この一筋の水の流れがずっと途切れることなく続いているので、これは、途中でパイプが断裂したりしているわけではないのだなと思い、蛇口を閉め、山を下り、川を渡り第一の蛇口へ。
第一の蛇口をひねると勢いよく水が飛び出してくる。
すぐに蛇口をしめ、家の軒先の蛇口へ。。
すぐに蛇口を開こうと思ったが、出てこないとショック、第二の蛇口のように待つのもいやなので、いっそのことと思い、30分ほどしてから蛇口をひねる。
蛇口からはすごい勢いで水が飛び出してくる。
もう感動―――、やまんちゅ誕生の瞬間!!!
その後、蛇口をひねったまま1時間ぐらいしたが水は絶えることなく出続けている。
これでしばらく水に困ることはないであろう。
これで安心して子供を泥だらけにしてあそばせ、その後しっかりと体を洗ってやることができる。
一件落着である!!!
わたしは40代後半であるが、この年になって初めて水を自分で得ることができた満足感は格別のものであった。
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